2025/08/17 10:19

🍷語れる酒と語りかける酒──しゃくし菜漬けといぶりがっこの対話

「ワインは語れる酒、日本酒は語りかける酒」。 素敵な言葉だと素直に思った。

 アルコールはただ酔うためのものではなく、記憶を呼び起こし、土地と人の物語を味わうための媒介でもある。 そんな視点から、ワインと日本酒、それぞれに寄り添う漬物を紹介したい。

🥬 しゃくし菜漬け × 白ワイン・スパークリング

しゃくし菜は、埼玉県秩父地方で古くから育てられてきた伝統野菜。 葉の形が「しゃもじ(杓子)」に似ていることからその名がついた。 冬の寒さに耐え、春先に収穫されるこの菜は、塩漬けにするとほどよい酸味と甘味が生まれ、シャキシャキとした食感が心地よい。

このしゃくし菜漬けは、白ワインやスパークリングワインとの相性が抜群だ。 特に辛口の白ワインと合わせると、酸味が共鳴し、しゃくし菜の青みが爽やかに引き立つ。 スパークリングなら、泡の軽やかさが漬物の塩味を包み込み、口の中で春の秩父を感じるような余韻が広がる。

ワインは語れる酒。 ぶどうの品種、土壌、醸造方法、そして飲む人の記憶と結びついて、物語を紡ぐ。 しゃくし菜漬けはその語りに耳を傾け、静かに調和する存在だ。

🧄 いぶりがっこ × 日本酒

一方、日本酒に寄り添うのは、秋田の「いぶりがっこ」。 雪深い冬、野菜を干すことができない土地で、囲炉裏の上に吊るして燻すという知恵から生まれた漬物だ。 大根の甘味、燻製の香り、そして塩味のバランスが絶妙で、噛むほどに奥行きがある。

このいぶりがっこは、純米酒や生酛造りのような、米の旨味がしっかりした日本酒とよく合う。 薫香が酒の香りと重なり、口の中で静かに語りかけてくる。 それは言葉ではなく、情景──雪の積もる軒先、囲炉裏の火、祖母の手仕事──が浮かぶような感覚だ。

日本酒は語りかける酒。 飲む人の心に、土地の記憶や人の営みをそっと届けてくれる。 いぶりがっこはその声を受け止め、深く染み入るように共鳴する。

漬物は保存食であると同時に、土地の風土と人の知恵が詰まった文化の結晶でもある。 ワインとしゃくし菜、日本酒といぶりがっこ。 それぞれが語り、語りかけ、私たちの感性を揺さぶる。

次に杯を傾けるとき、ぜひその背景にある物語にも耳を澄ませてみてほしい。